「逆光の頃」 忘れていた時代


今から20年も前に買ったマンガ、
タナカカツキの「逆光の頃」。
陳腐なコトバだけれど
これは自分にとって宝物と呼べる一冊だった。


ここに描かれた世界が好きで好きで、
それをいろんな人と共有したかったんだろうな。
酒を飲んでは熱く語り、頼まれていなくても
読んでみる? と貸したりしていた。


そうこうするうちに、
気がつけば誰に貸したのか分からなくなり、
代わりを手に入れようと思っても、すでに絶版。
喪失感だけが手元に残った。


逆光の頃 表紙

知っている限りでは、
6,000円以上の古本もあった。
それから何年たつのか分からないけれど
古本でも高くてもいいかと探している最中に
復刻版の計画を見つけた。


そして・・・
ついに昨日、復刻版「逆光の頃」が到着。
表紙のデザインは変わってしまったが
あの美しい世界は変わらない。



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オススメの本 (4)  鷺沢萌「ウェルカムホーム」

新年早々のニュースに興味深いものがあった。
「21年前の子ども取り違え判明」(MSN産経ニュースより)
テレビでも盛んに報じられたので、覚えている方も多いだろう。

そのニュースとは、北京の病院で生まれた双子の1人が
21年経って別の新生児と取り違えられていたことが判明したというもの。
2人が置かれた環境は一方は都市部の裕福な家庭なのに対し、
他方は農村部の貧しい家庭という皮肉なものだった。

ここで一番微妙だった存在が、間違えて農村部で育てられた義武さん。
農村部は血縁重視らしく、育ての母親は実の子に帰ってきて欲しいと
迫ったそうだ。ニュースではその後、育ての母と義武さんとの関係が
どう変化したか触れられていない。

21年経って分かった事実が、家族を終わりにさせるのか、
それとも家族の絆を強くするのか、それは当事者の気持ち次第である。
事実としての家族関係か、真実の家族関係か…。

さて前置きが長くなってしまったが、鷺沢萌の「ウェルカム・ホーム」である。
テレビで上記のニュースを見て、思い出したのがこの本だった。

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ウェルカム・ホーム! (新潮文庫)ウェルカム・ホーム! (新潮文庫)
(2006/08)
鷺沢 萠

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オススメの本 (3)  重松清「定年ゴジラ」 (改訂)

定年ゴジラ (講談社文庫)定年ゴジラ (講談社文庫)
(2001/02)
重松 清

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オススメどころか、これは大好きな物語である。
今回は布教活動のような気分だ(笑)



重松清は、言うまでもなく現代の人気作家のひとりであり
ファンも多い。この「定年ゴジラ」は彼の初期の代表作なのだが、
他の人に重松さんの好きな作品は?と尋ねると意外に挙がらない。
「エイジ」や「ビタミンF」、「きよしこ」も「疾走」もみんな
いい小説なんだけど。自分の場合は、初めて読んだ「定年ゴジラ」が
一番の作品。それ以降も文庫化された作品はほとんど読んでいるが、
やはりこの作品が好きである。


さて、この物語の主人公は定年後の第2の人生を歩み始めたばかりの
お父さんたちである。会社という居場所を失い、自分の存在意義を問い
ながら、毎日をもがく彼らたち。そんなお父さんたちの人生に、奥さん
たちの人生や、子どもたちの人生が交錯し、物語が織り上げられていく。
自分とは遠い世界を描いたこの物語に、ここまで心を掴まれるとは
全く思っていなかった。


この定年ゴジラだけでなく、重松清が描くのは家族との、社会との、
地域との、いろんな間(はざま)で揺れ動く人間だ。様々な事情に
翻弄され、迷いながら、自分を探しながら、制御を失いながら、
そして誰かを許しながら、歩いていく人々の姿。そんな人々の日常に
寄り添い、まるで守護霊のような大きな優しさで見つめている。
自らを小説家ではなく物語作家と語るところにも、彼の作家としての
スタンスが見えていると思う。


ところで、重松さんの表現の特徴というか、描きたい世界だと思うのだが、
「コトバにできない気持ち」というものがある。
言えなかったコトバが苦いコーヒーとともに胸の内に流し込まれたり、
伝えられなかった想いが野球場のファールグランドへ消えていったり…。
そんなもどかしさや、想いの深さが、見事な比喩で描かれている。

シンプルな言葉だけど、こんなにも深く描けるんだ。
コトバって、すごいな。



ハードカバーがほしい人はこちらだよ^^

        ↓

定年ゴジラ定年ゴジラ
(1998/03)
重松 清

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オススメの本 (2)  いしいしんじ「絵描きの植田さん」

絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)
(2007/11)
いしい しんじ

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これは大人向けの絵本だな。
絵本にたとえてもページごとに絵があるわけではない。
後半にさしかかったあたりから絵だけのページが何枚もつづくが
それをさしおいたとしても、この印象はかわらないだろう。


ここに綴られている文章は、決して比喩や含蓄に富んだものでない。
飾り気のないやさしいことばの連なりが、読む人の胸の中に映像をうつしだす。
それは背景まで映し込まれた映画的なものではなく、
登場人物と、そのすぐ周りの物だけを描き写した
スケッチのようなものだと感じた。


多くの人は「コトバ」を駆使して、描きたい情景をここぞと表現する。
そんなコトバの力にも心を揺さぶられたりするのだけれど、
いしいしんじの「ことば」は一文一文を眺めて
特別でない自然なことばが流れをつくり、やさしい世界を築きあげている。
絵画にたとえて言うなら、パレットナイフのエッジで
フォルムを際だたせるのではなく、ひとつひとつのことばを丁寧に、
点描のように重ねて描いているような感じ。
彼の文章には、「見せ場」をつくるという意図は全くないのだろう。


加えて、いしいしんじの文は非常にビジュアル的である。
ひらがなが本当に多い。物語を見ても、名前を見ても
ひらがなの持つ、まあるいかたちが作りだす、やさしい世界が好きなんだろう。


コピーの世界では、心というコトバを使う場合、
心とするのか、こころとひらくのか、またココロやKO KO ROと
カッコつけるかで、イメージの伝わり方をコントロールすることが多い。
広告のコピーは、コトバやフォントを使い分けた
ビジュアルを意識した「コトバ」である。


でも、いしいしんじの「ことば」には作為的な印象はまったくない。
手をあげる、床におろす、道がつづく、はなしを終える…。
音やことばそのものが持つ世界観で、自然に使い分けているように思える。


何はともあれ、この物語は、やさしいことばと、やわらかなひらがな、
そのやさしい世界が、いのちを授けているはずだ。


プロの仕事は恐るべし。ホント、そう思う。



追記 何だか評論チックになったけど、いい「ものがたり」です。
   お子さんがいる方は、ぜひ勧めてあげてください。
   ぜひ、読んであげてください。おすすめです。


オススメの本 (1)  萩原浩「明日の記録」

明日の記憶 (光文社文庫)明日の記憶 (光文社文庫)
(2007/11/08)
荻原 浩

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彼の小説を初めて読んだのはデビュー作の「オロロ畑でつかまえて(集英社文庫)」。
彼の前歴が同業というのもあって興味を持ったのが始まりだ。


デビュー作は楽しいだけが印象だった。
それが第二作の「なかよし小鳩組」を読んで以来、すっかりファンである。
これも前作と同じくエンターテイメントに徹した本なのだが、
不用意に読んでいると、ラストで心を鷲掴みにされる。
ただのユーモア作家ではなかったと、それ以降の作品を読むたびに感じている。


さて、映画化されて非常にメジャーになった「明日の記憶」だが
多彩を極める萩原浩の作品の中でも異彩を発する。
映画はまだ見てない。失敗したなあ。
どちらも楽しみたい人は映画を先に見たほうがいい。
映画に感情移入できなくなるからね。コレ定説です(^^;)

         ・ ・ ・

この物語は、若年性アルツハイマーにかかった50代の男が主人公だ。
積み上げた努力や自信が、大切な人との時間が、
まるで無かったことのように消え失せていく。
自分が、自分の存在価値が、溶けて無くなるその怖さ。


アルツハイマーに関して、僕らはどれだけ無知で、
どれだけ恐ろしい病気か、この本を読んで正直思い知らされた。
数年後には死に至る病だなんて…ウソでしょって感じ。
読んだ人は冗談でさえ「アルツ」なんて言えなくなる。


死は言うまでもなく、生命の終わりとしての客観的な死であり、
取り巻く人々が突きつけられる事実としての死なのだろう。
でも、ここに描かれている「記憶の死」は自分の終わり。
これも死ぬことなんだなと気づかされた。


人間は過去に生きているのではないことは、理屈では分かる。
でも、何だろう・・・。
自分たちは現在より過去を大事にしているのかなあ。
この死を迎える人と、死を受け入れる人の物語を読んでいると、
現在という時間の大切さが染みてくる。


死んだっていいじゃないか。死ぬまで今があるんだから・・・。

これ以上書くのはやめます。読む人が感じればいいことだし。
ただひとつ、伝えないといけないことはコレ。

電車の中で,ラストシーンを読むのはやめた方がいいということ。


・・・謹んで申し上げます。

オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)
(2001/10)
荻原 浩

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