オススメの本 (2)  いしいしんじ「絵描きの植田さん」

絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)絵描きの植田さん (新潮文庫 い 76-6)
(2007/11)
いしい しんじ

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これは大人向けの絵本だな。
絵本にたとえてもページごとに絵があるわけではない。
後半にさしかかったあたりから絵だけのページが何枚もつづくが
それをさしおいたとしても、この印象はかわらないだろう。


ここに綴られている文章は、決して比喩や含蓄に富んだものでない。
飾り気のないやさしいことばの連なりが、読む人の胸の中に映像をうつしだす。
それは背景まで映し込まれた映画的なものではなく、
登場人物と、そのすぐ周りの物だけを描き写した
スケッチのようなものだと感じた。


多くの人は「コトバ」を駆使して、描きたい情景をここぞと表現する。
そんなコトバの力にも心を揺さぶられたりするのだけれど、
いしいしんじの「ことば」は一文一文を眺めて
特別でない自然なことばが流れをつくり、やさしい世界を築きあげている。
絵画にたとえて言うなら、パレットナイフのエッジで
フォルムを際だたせるのではなく、ひとつひとつのことばを丁寧に、
点描のように重ねて描いているような感じ。
彼の文章には、「見せ場」をつくるという意図は全くないのだろう。


加えて、いしいしんじの文は非常にビジュアル的である。
ひらがなが本当に多い。物語を見ても、名前を見ても
ひらがなの持つ、まあるいかたちが作りだす、やさしい世界が好きなんだろう。


コピーの世界では、心というコトバを使う場合、
心とするのか、こころとひらくのか、またココロやKO KO ROと
カッコつけるかで、イメージの伝わり方をコントロールすることが多い。
広告のコピーは、コトバやフォントを使い分けた
ビジュアルを意識した「コトバ」である。


でも、いしいしんじの「ことば」には作為的な印象はまったくない。
手をあげる、床におろす、道がつづく、はなしを終える…。
音やことばそのものが持つ世界観で、自然に使い分けているように思える。


何はともあれ、この物語は、やさしいことばと、やわらかなひらがな、
そのやさしい世界が、いのちを授けているはずだ。


プロの仕事は恐るべし。ホント、そう思う。



追記 何だか評論チックになったけど、いい「ものがたり」です。
   お子さんがいる方は、ぜひ勧めてあげてください。
   ぜひ、読んであげてください。おすすめです。


Comment

こんにちは。
いしいしんじさんの作品の独特の空気感って
本当に素敵ですよね。
「トリツカレ男」もおすすめです!是非!
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