オススメの本 (4) 鷺沢萌「ウェルカムホーム」
- Day:2008.02.12 09:00
- Cat:オススメの本
「21年前の子ども取り違え判明」(MSN産経ニュースより)
テレビでも盛んに報じられたので、覚えている方も多いだろう。
そのニュースとは、北京の病院で生まれた双子の1人が
21年経って別の新生児と取り違えられていたことが判明したというもの。
2人が置かれた環境は一方は都市部の裕福な家庭なのに対し、
他方は農村部の貧しい家庭という皮肉なものだった。
ここで一番微妙だった存在が、間違えて農村部で育てられた義武さん。
農村部は血縁重視らしく、育ての母親は実の子に帰ってきて欲しいと
迫ったそうだ。ニュースではその後、育ての母と義武さんとの関係が
どう変化したか触れられていない。
21年経って分かった事実が、家族を終わりにさせるのか、
それとも家族の絆を強くするのか、それは当事者の気持ち次第である。
事実としての家族関係か、真実の家族関係か…。
さて前置きが長くなってしまったが、鷺沢萌の「ウェルカム・ホーム」である。
テレビで上記のニュースを見て、思い出したのがこの本だった。
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Welcome Homeも同じ、お帰りなさいという意味だけど、
これは長期間、家を離れた人に対して言う言葉だ。
そこにはいろんな想いが詰まっている。
この本には、「渡辺毅のウェルカム・ホーム」と
「児島律子のウェルカム・ホーム」という2つの短編が収録されている。
どちらも素晴らしく甲乙付けがたいが、私は後半の方をおススメしたい。
この2編に描かれているのは父子家庭とそこに同居する赤の他人との関係だったり、
血縁の無い母と娘の再会だったりと、少し特殊な人間関係。
事実上、家族ではない人たちの物語なのであるが、そこには家族以上と
言いたくなるほど家族らしい人間関係が描かれている。
事実、家族とは血縁だ。でも、それだけじゃない。
時間が人と人を家族に変え、思い出が家族を強くする。
ウェルカム・ホームを読んで、家族とは何かいろいろ考えたけれど
結局、家族は心と心。陳腐だけど、それが真実じゃないかな。
心のつながらない関係を、やっぱり家族とは呼べない。
このウェルカム・ホームを何と言う言葉で紹介すればいいか迷ったけど、
文庫本の説明文の冒頭に素敵な言葉があった。
「いちばん大事なのは、お帰りって声をかけてくれる人がいること。」
そして、その言葉から連想したもうひとつの言葉。ここに家族の真実があると思う。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
(サラダ記念日/俵万智より)
ウェルカム・ホームは美しい物語である。
できれば、この作者にこの言葉を投げかけてあげたいのだけれど。
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